12/08/28
番外編日誌 《ルパム》稽古始まる(7月4日)
《ルパム》は山の手事情社だけで通用する言葉。
「何のことですか?」「いわば、ダンスですね」
「ならダンスでいいのに」と単純には行かない。
ダンスって言葉はどうしてもヨーロッパの踊りの匂い
がする。といって「舞踊」「おどり」は日本舞踊を連想
させるし、「舞踏」でもないし。
現代日本に生きるボクらの動きというか、身体所作が
あるはず。まず名前から決めよう、と劇団員にまかせ
たら、持ってきたのが「ルパム」だった。20年も昔の
話。リズム・アップ・プレイ・アクト・ムーブの頭文
字ですって、わかるようなわからないような。
芝居のイメージを別の角度から見せる、せりふ部分と
テンポを変え緩急をつける、お客さんの気持を切り換
える、見ていてはっとする、わくわくする、面白い。
ま、狙いはいろいろある。その《ルパム》の稽古が始
まった。淳子さんの担当。早朝から宿舎の台所で曲を
聴きながら振付のカウントを取り、俳優それぞれの動
きをペーパーにしていく。
新しい演技スタイルを模索し続けてきたが、難しい。
圧倒的に時間不足だ。このままだと《読合せ》に時間
がかかって本格的な稽古に入れない、と稽古場の2階
廊下に新稽古場を勝手に設定し(本来は俳優の休憩場
所)、そこは淳子さんにまかせ、2か所で稽古を進める
ありさまだ。日本人並に気の回る演出助手のヴィチェ
ンチウと、通訳も兼ねてトモが淳子さんについている。
こちらの俳優さんは、というか劇団自体、6週間で一本
作る、というサイクルが習慣化し、すでに体質になっ
ている。新しい芝居は作るけれども新しいスタイルで
作るなんて感覚はない。むしろ決められたことを完成
度の高いレベルに持っていく能力、集中力には見るべ
きものがあるような気がする。
新演技形式、新ダンスシーン、というようなものを提
案してもらうのは無理と判断し、ボクが《読合せ》稽
古を見ている裏で、淳子さんに試しに《四畳半》で俳
優に動きをつけてもらった。説明が多くて恐縮だが、
《四畳半》は山の手事情社の演技形式のこと。重心を
ずらして立ち、身体を重く使って、せりふの際には止
まる。ご興味のある方はYou Tubeで。あ劇場で。
「これ見て判断してください」と最初のシーンの試作
が出来上がってきた。見て、淳子さんに逆質問「どう
思う?」「…難しいですよね」突然笑いがこみあげてき
た。「何で笑ってるんですか」と俳優もけげんな顔。
本番は9月だが、7月20日に関係者総見の内覧会があ
る。そのでき如何で、最悪公演なし、の可能性だって
ある。あと3週間、間に合うのか、という思いと、言
われたままにやってはいるが、今までの立った《読合
せ》よりずっと面白くなりそうじゃんという思いがな
いまぜになって、思わず笑ってしまったのだ。
「今日明日、ためしにこれで攻めてみよう」
大問題が出でこなければ、《四畳半》で行く。ボク自身
の腹が決まるのに一両日必要ということ。だって当初
は夢にも考えていなかった。「《四畳半》? それだけ
はないよな」なんて出発前の打合せには口にしていた
し、他のスタッフも同意していたことなのだ。
淳子さんは事態を飲み込んだようで、「明日から《ルパ
ム》稽古入ります」と小刻みにうなずいた。後戻りで
きない場所にさしかかって来た。
※写真説明
1枚目
淳子さんの先導で、
《歩行》を練習する。
2枚目
《ルパム》稽古風景。
3枚目
2階仮稽古場で打合せ。
左からフローリン、トモ、淳子さん。
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山の手事情社次回公演!
「トロイラスとクレシダ」原作/W・シェイクスピア
2012年10月24日(水)-28日(日)
東京芸術劇場 シアターウエスト
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