12/08/21
番外編日誌 枯れない人たち(翻訳の難しさ2)(6月28日)
「野崎参りがわからない」とヴェロニカ。日本でなら
「自分で調べろ」で済むが、簡単にネットで検索とい
うわけにもいかないし、微妙な部分がわからない。
ま、巡礼なんだけど、どちらかというとリクリエーシ
ョンだね、ピクニック的な。
泊まるんですか? … おそらく日帰りだな。
茶屋って? … カフェだよ。
何を飲むんです、食事は? … 日本茶。コーヒー
じゃないよ。食事はなし、軽食だけ。
「観音と仏陀はどう違うんですか?」
これ同じなの。現れた姿が違うんだね。と言いつつ自
分の知識のあやうさにひやひやする。キリスト教徒に
わかるんかいなという思いもよぎる。
商人のイメージもお国柄で違うようだ。
舞台となる大坂の商人といえば、まじめにこつこつ商
売に励む印象。体制に寄りかからず、街のインフラを
自力で整備したり、学問の世界で独自の成果を残す研
究者がいたり。
ところがこちらでは「商人」=「悪人」だという。
「土地ころがしで稼いで、サッカーチーム買ったと思
ったら、それ使ってマネーロンダリングですよ」
とフローリン。与兵衛の父・徳兵衛役。レスリング出
身でガタイがいい。声もいい。歌もうまい。思い通り
の演技ができずに自分に腹を立てて暴れている姿は
面白いが激しく危険。近づくとけがをしそうだ。
虚をつかれたのが男女の関係にからんだ話。
遊女小菊は野崎の茶屋で、会津の成金蝋九[ろうく]
に「もっとこっちへ寄ったらどうだ」と迫られ、「往来
の人が皆こっちを見て」と嫌がる。
好きでもない男に迫られるのは嫌だけれど、「皆が見
ている」という断わり方がピンと来ない、とラルーカ。
「江戸時代の日本人は男女が手をつないで歩いてい
るだけでも大騒ぎなんだよね」
信じられない様子。
また中之巻で豊島屋のお吉をこっそり訪れた徳兵衛
が、妻のお沢に見つかって、「ここへ何の用がある、
浮気する年でもなし」と声をかけられる。日本人なら
何の疑問も持たないこのせりふだが、ダナがかみつい
て来た。「浮気に年が関係あるのかしら?」というわけだ。
「関係ない?」「当たり前でしょ、いくつになっても」
さすがラテン系。愛に、恋に生きてこそ人生。
快楽なくして何の人生。
日本人だなぁボクぁ、としみじみ感じ入る。
せりふの一文にすぎないが、文化の違いが凝縮してい
る。振り返って、自分はヨーロッパの戯曲をこのよう
に疑い深く読んでいたのだろうかと反省。
一方「日本人だなぁ」とか言いつつ、ほんとに日本の
こと知ってるんだろうかと心細くもなる。
※写真説明
1枚目
ヴェロニカ。
昨年ルーマニア最優秀演劇作品賞の
「わが青春最後の日」の主演女優。
2枚目
与兵衛の父徳兵衛役のフローリン。
小菊を口説く蝋九も彼が演じる。
3枚目
小菊のほかに禿[かむろ]も演じるラルーカ(左)、
と与兵衛の伯父山本森右衛門役のヴィオレル。
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