12/07/11

女殺油地獄(ルーマニア)

番外編日誌 つわものどもが夢の跡(6月6日-8)

演出助手のヴィチェンチウが車を出してくれて、
シビウ近郊にあるローマとダチアの遺跡を訪れた。
ダチアはルーマニアの旧称ではあるが、
東京の旧称は江戸、というほど単純ではない。
(「ダキア」でネット検索可能)

ともあれ、昔この地はダチアと呼ばれ、
ダチア人によって支配され、
それは現在のルーマニア人の祖先
と考えられている。
「ダチア」という有名な自動車メーカーも、
そこから命名されている。

サルミゼゲトゥサ。
一度では名を憶えられないこの遺跡。
ローマの基地とダチア人の砦が
かなり広い範囲に点在している。
「地球の歩き方」にも「世界遺産」として
名前は出てくるが、一ページも割かれていない。
理由はやがてわかることになる。
昼過ぎに出発したわれわれは、晴れてすがすがしい
トランシルバニア山脈をとばして、
まずはローマの基地跡に着いた。

おおこれが…本で読み、夢にまで見た
ローマ帝国の基地か。
こんなところまで、てくてく歩いてきて、
こんな巨大な基地を作ったのか!
街はずれの円形競技場、中心に位置する官庁、
商店街、裁判所など。
基地と言っても数万人が暮らした巨大都市だ。
2000年前、ここに人々の暮らしがあった。

掘り返せばまだまだ出てくるのだろうが、
財政問題ゆえか、ローマ軍基地がほぼ同じ構造で、
珍しくないと思われてか、
ざっと掘り出したまま放置されている。
今は農家があり、馬や羊がのんびり草を食んでいる。
畑を掘ってたら突然遺跡が出てきて、
一通り遺跡として整備した、という感じだ。
海外の観光客を呼ぶにはサービスに欠ける。
正面の博物館も開店休業状態。案内板もない。
もっとも博物館は、ご厚意にすがって
強引に見せていただきました…

(つづく)

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山の手事情社次回公演!
「トロイラスとクレシダ」原作/W・シェイクスピア
2012年10月24日(水)-28日(日)
東京芸術劇場 シアターウエスト
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12/07/11

女殺油地獄(ルーマニア)

番外編日誌 フェスティバル後の街(6月6日-7)

稽古中に住むアパートは
街を環状に囲む道路沿いにあり、
劇場までは徒歩10分、稽古場まで15分。
4部屋、プラスキッチン。
シャワーと一体になったトイレが2つ。
国立ラドゥ・スタンカ劇場が借りているものだ。
ルームシェアで、公演ごとに他地域から来た
スタッフや俳優が出入りする。
今回は日本人スタッフのために空けてくれた、はず。

しかし、いまここにダニエルと名乗るドイツ人が、
台所を物色しつつ
何やら鍋に食べ物をうつしているではないか。
ここは日本人の住宅になっている、
もはやキミらの出入りする場所ではないのだ。
と伝えたいが、睡魔には勝てずに眠ってしまった。

どうやらボクの寝ていた部屋はダニエルの部屋で、
というか、それまでダニエルが使っていた
部屋のようで、改めて見回すと、
彼の舞台写真が壁にべたべたと貼られている。
キャビネットの荷物だけでなく、
壁に固定された棚にも
酒やらメモやらが置いてある。

ボクばかりがびっくりしたのではなかろう。
帰って来たら自分の部屋に得体の知れない
東洋人が眠っている。まぁ、そういうこともある。
ということで「ダニエルだ!」
という自己紹介になったのだろう。
悪いことをした。

翌日ネット環境を求めて劇場に行き、
お湯が出ないこと、ダニエルのこと、
彼のもの以外にも荷物が置かれていることを
伝えに言った。
戻るとダニエルの荷物はきれいに消えていた。
あとで聞いた話では、彼はドイツ語部門の俳優だ。

シビウはもともとドイツ人の作った街で、
ヘルマンシュタットという名前もある。
メニューもルーマニア語とドイツ語が
併記されていたりする。
ラドゥ・スタンカ劇場も1788年創立時は、
ドイツ語劇団だったのではなかろうか。
そうした歴史からこの劇場では
年間数本ドイツ語の芝居を上演する義務があり、
ドイツ語部門を置いている。

演劇フェスティバルが終わったら、
閑散としてしまうのかと予想していたが、
とんでもない。街を歩くと
演劇祭の時より人が出ている。
来週にはトランシルバニア映画祭も
予定されている模様。
劇場は休暇に入って、
新作の製作態勢に入りつつあるが、
それでも7月下旬まで、
レパートリー作品は上演されている。

(つづく)

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山の手事情社次回公演!
「トロイラスとクレシダ」原作/W・シェイクスピア
2012年10月24日(水)-28日(日)
東京芸術劇場 シアターウエスト
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12/07/11

女殺油地獄(ルーマニア)

番外編日誌 引越し(6月6日-6)

「女殺油地獄」製作に向けて、
いろいろなことが動き出す。
稽古は8日、あさってから。
フェスティバル終了の翌日4日に、
10日間ほど過ごしたホテルから、
アパートに引越しをした。

昼過ぎ、3階の部屋に荷物を運び込む。
建物の入口には厳重な鍵。
エレベーターがないので重い荷物は苦労する。
ドアの鍵は2回まわさないと開かない。
部屋の中から鍵をかける時も同様。
めんどう。
典型的な社会主義時代の集合住宅だ。
壁が分厚く、換気扇がなく、簡素すぎるデザイン。
部屋のあちこちにがたがきている。
プラグを抜いたら、埋め込みコンセントごと
壁からはずれた。

「7月の滞在まで、ここはあなたがたのものだ」と
手伝ってくれたヴィチェンチウ氏は立ち去ったが、
部屋のキャビネットを開くと荷物が入っている。
服もかかっているし、冷蔵庫には食べ残しが…。
汗を流そうとシャワーをひねるがお湯が出ない。
しばらく待ったが冷たいままだ。
湯わかし器が壊れている。
こんなことならホテルで浴びてくりゃよかった。

ならばメールでも確認しよう
とコンピュータを開くものの、
電波が拾えない。ネット環境にない…。
ヴィチェンチウの電話番号がわからない。
聞いとくんだった。
ガスコンロはマッチがないと火がつかない。
テレビはない。もちろんラジオも。
当面の飲物と軽食を買って戻ると暗くなっている。
いまこちらの日没は22時前。
環状道路の車の音が響く薄暗いキッチンで、
ビールを飲みつつ腰かける。
ときどき酔っぱらいの喚声が聞こえる。

思えば子供の頃はこれが普通だった。
自動点火もお湯もネットも液晶テレビも
今では当り前だが、子供のころはなかった。
ずいぶんといろいろなものが整ってないと、
暮らせなくなっているなぁ。知らないうちに。
それを考え直せ、ということか、この時期に。

疲れがたまっている。横になった。
うとうとしていると突然
玄関の鍵を開ける音がし、
大男が入ってきて、叫んだ。
「ダニエルだ!」
どうなってるんだここは。

(つづく)

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山の手事情社次回公演!
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2012年10月24日(水)-28日(日)
東京芸術劇場 シアターウエスト
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