13/08/08

道成寺/モルドヴァ・ルーマニア

演劇の陽気神様のツンデレ

チズナディオラ要塞教会でのシビウ公演初日の前々日、僕と浦さんと本さんは、カフェバーにいました。※1
そのカフェバーはラドゥスタンカ劇場で使用した仮面や舞台衣裳、舞台装置などがディスプレイされていてとても素敵な空間でした。 そこで、仕込みの話やら、先のモルドバ公演のことや、なんとなくおしゃべりしていたのですが、とても穏やかな一時を過ごしていた気がします。

次の日、急遽、教会に梁を吊ることになり、男優達は教会へ向かうことになりました。梁が到着するまで麓で一休み 、日差しが穏やかでついうとうとしてしまいます。

このあと、初日の幕が開くまでの長い長い30時間が始まります。
まさかあんな事態になるとは微塵も感じることはありませんでした。

そして、あの事件です。
(詳しくは浦さんツアー報告をご参照下さい。)
200キロもあるかという巨大な梁をあげるのは、大工さんの仕事。
素人男優の人力だけで教会の天井に上げるなんて普通はできません。
梁を吊るしたロープが切れたその時、かろうじて壁にもたれ掛かった梁を僕はただ見つめるだけでした。落ちていたら、怪我人がでたら、公演は即中止でしょう。

何とかして梁を上げ、帰ろうとすると、さっきまでの天気がうそのように突然の大雨、麓まで降りれません。

「なんかとてつもないものを相手にしてるのかも。」

そんなことが頭をよぎります。

その夜から仕込み。
当初の予定とは全く異なり、遅々として進まない仕込み作業、ついに夜が明けます。

教会から見る朝日の美しいこと。※2

一旦ホテルに戻り、シャワーと仮眠。で、すぐ教会、仕込んでも仕込んでも終わらない仕込み地獄。

舞台袖から煙が上がったと思ったら、照明機材が原因不明のトラブルでクラッシュ。シュートが出来ません。一時中断。
またもすごい雨、古い教会です。雨漏りがひどくて、急遽、衣装や機材に養生対策。

山本さんが一言
「教会の神様怒らせたかもな」

てことは、僕らが相手してるのはイエス・キリストですか。

やっと仕込み終わったのが、本番一時間前、麓に降りて、メイク、すぐ入山、入り口には既にお客さんが並んでます。

本当に幕が開くのか心から思いました。あとにも先にも始めての感覚です。

開きました。開くもんです。

無心でした。そして、盛大な拍手。次の日の陽気な天気。※3

やっと、教会の神様が僕らの芝居を認めてくれたような気がしました。

打ち上げ(詳しくは川村さんツアー報告をご参照下さい)。有難い言葉をたくさんいただき、いろんなものを消化するかように躍り狂い、気がつくとホテルのバスルームで素っ裸で寝ていました。

僕らのいろいろな思念が、行為が、ぎゅーっとつまった舞台、そこには本当に魔物が潜んでいます。その事にこれほど実感できた舞台はありませんでした。
でも、だからこそ、演劇というのは魅力的なのかもしれません。

しかし今回の演劇の陽気神様のツンデレぶりは本当に半端ありませんでした。

岩淵吉能
※写真
※1素敵なカフェバーの浦さんと本さん
※2朝日
※3教会と衣装

13/08/01

道成寺/モルドヴァ・ルーマニア

見巧者

ルーマニア・モルドバツアー。今回は宿題をたくさんもらった気がします。

しかし、シビウのお客さんの見方の上手さったらない。
これは一体どういうことなのだろう?

その昔(15年ほど前)、アヴィニョンの演劇祭で「観客の意思表示」というものがあるんだなぁと知った。
演劇祭のメインイベント・法王庁での野外ギリシア悲劇。千人近く集まっていたと思う。劇がはじまってしばらくすると、客席から響く低いうなり声…これがブーイングというもの…!? そして席を立つ人、人、人…。
こんな有名な世界的演劇祭の正式招待作品でも、観客は平気で「NO」という。

おそろしや。そしてすがすがしや。

かたや、ロメオ・カストリッチの「ジュリアス・シーザー」。筋は知っていたけど、筋に関係ないことばかり起こる。
舞台の最前列の電球が割れる。順番に。パリン! パリン! あぶなっ
登場人物の現在の胃の中がスクリーンに大写しになる。きもっ
肥えに肥えた素っ裸の男性がゆっくり後ろ向きに座る。腰のあたりにペイント。バイオリンのつもり? 何の意味が!?
見せ場、聴かせどころのアントニーの演説は、喉に穴があいた役者さんが語る。ひゅーひゅー言ってるけど…???

客席はざわつく。席を立つ人もいる。一幕が終わった時点で半分くらいになったと思う。そして残った半分は…前へつめろ! 目が離せんこの芝居! ぎらぎらした観劇欲(?) にとりつかれた人たちが客席の前半分を占拠。
なんだか異様な興奮に包まれて、さらにわけの分からない二幕が終了。熱狂的な拍手と、やはり拍手をしない人々。戦争でも起こりそうな雰囲気…たかが演劇一本で…。

「演劇祭」ということもあるのかも知れません。全世界から演劇を観にわざわざやってくるんですから。おもしろいもの観せろやっ! という気合も違ってくるのだと思います。

そしてシビウのお客さんは…やさしい。
いや、怖いんですけど。観せろやっ! はビンビンに感じるんですけど。
(特に今回の私の登場は、客席に寒気を送ってしまったので、客席から「さむっ! 勘弁してくれや!」 というざわめきを感じました。怖かったです…涙。)
なんというか、本質を観ようとしてくれるというか。
今現在の至らない部分ではなくて、やろうとしているところを観てくれるというか。
見巧者が芝居を育てる。昔の歌舞伎や文楽とお客さんの関係もこんなだったのかな、と想像したり。

そんなシビウで賞をいただけたのは、本当に本当に嬉しいことでした。
至っていないのはわかっています。
「ユー、もうちょっとがんばったら?」 賞と自分的には受け取りました。

大久保美智子

※写真
上/結果、客席に寒気を送り込むこととなった美智子さん登場シーン。(正面、舞台奥の扉)
中/劇場だけでなく、シビウの街、其処此処でパフォーマンスが行なわれている。最終日に近いこともあり、盛り上がりを見せていた。
下/「女殺油地獄」を劇団員が観劇。最後はスタンディング・オベーション。安田さん、淳子さんも舞台上で挨拶。

13/07/30

道成寺/モルドヴァ・ルーマニア

シビウからブカレストにかけてのこと

倉品です。すでにみなさんがいろいろ書いていらっしゃいますので、なんの足しにもならないプライベートな話ですが、どうかご容赦くださいませ。
えー。ツアー中に風邪をひいてしまいました。鬼の撹乱といいますか、寄る年波には勝てずといいますか。本当に情けない話です。まあ、言い訳にすぎませんが、シビウの公演が! 本当に! 寒かったのです!

シビウの公演の次の日、なんだか変な感じはしていたのですが、ラドゥスタンカ劇場の裏に、野田秀樹さん演出の「The Bee」に知り合いの俳優さんが出ていたので会いに行って、その奥様の女優さん、キャサリン・ハンターさんを紹介してもらったりしていました。
(そうなんです。実はキャサリンさんは「道成寺」を見に来てくれる約束になっていたのですが、腰を痛めていらしたそうで、本番を控えたキャサリンさんがあの教会の階段を登るのはリスクが大きいという判断で来られなかったそうです。「My big apologies」と言われましたが、やはり残念。見てもらいたかったです。)
その時です。なぜかラドゥスタンカ劇場の総監督キリアックさんの奥様がいろいろなお料理とともにツイカ(ルーマニアのとても強いお酒)を振舞ってくださいました。とてもお料理上手かつサービス精神旺盛な奥様で、とても素敵な方です。お酒の方は、風邪だからと遠慮したのですが「それは大変! ルーマニアではこれは薬なのよ」とさらに強く勧められ、「なるほど! そうか。ちょうどよかった。」とご馳走になったのですが、その強いお酒薬よりも私の風邪のほうが強かったらしく、どんどん具合が悪くなってしまいました。
その夜、ラドゥスタンカの俳優さんに会って「道成寺」の感想なども聞きたかったのですが我慢。ホテルにて、ただひたすら睡眠しておりました。

私は「風邪なんてひくのは精神力が足りないんだ! 」などとわめいていた無神経な部類の人間なもので、薬も全く持参しておりませんでした。ブカレストの仕込みはほとんどみなさんにお任せし、一人部屋で休ませてもらって、きちんと薬を準備してきている笑美さんや美智子さんから風邪薬をもぎとり、なんとか本番までには調子を取り戻しました。ふ、あぶなかった。本当に反省です。

余談ですが、美智子さんお勧めの「Hapciu」と書いてあるお茶がありまして。ん? ハプチウ?鼻をかむ女性の絵が描いてあって・・・。それってもしかして、はっくしょん・・・はくしゅん・・・はくちん・・・はぷちん・・・はぷちう・・・ってこと!?
なんとオノマトペ的な言葉なのでしょう。英語の「sneeze」よりずっとかんじ出てますよね。このお茶、即効性がある。飲んだそばから楽になる感じ。本当に良かったです。もしルーマニアに行かれることがありましたら是非お試しください。

倉品淳子
※写真
上/シビウにて。「道成寺」のポスターと共に。
下/オデオン劇場にて。風邪より復活した淳子さん。通し稽古の様子。

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