14/01/08
『なんだなぁ』
今回の公演作品は17世紀フランスの劇作家モリエールの「ドン・ジュアン」。
主人公ドン・ジュアンと付き人スガナレルがほぼずーっと、舞台にいます。
他の役はちょっとでてきてなにか喋ったと思ったらもうでてこない。
全部の役とはかぎりませんがたいがいそんな感じです。
というわけで、安田さんの稽古をやっているときに空いているメンバーで
「このシーン合わせられるねー」
というのができません。
だからドン・ジュアン役の浦さんとスガナレル役の山本さんがいないことには
もう困ってしまいます。
そこを考慮してか自主稽古の時間をつくってもらえたのですが、
まあ、その時の話です。
メインの自主稽古場が二階でおこなわれるなか
私は一階の稽古場で悶々としながらストレッチや発声をしたり
台詞をしゃべったりしていました。
そしてときおり聞こえる上からの声。
美智子さんが
なんだなぁ
と言っています。
私はその台詞のあたりだったら10分かそこらでまわってくるかなぁ
とおもいつつ
あいかわらずストレッチや発声、ときたまトイレにいきます。
季節はすでに冬。
ちかごろトイレがちかいです。
そして上から聞こえる美智子さんの声。
なんだなぁ
どうしてもそこが納得いかないご様子。
時計を見ます。
なんだなぁ
刻々と時は過ぎゆき
いつ終わるともしれぬ
なんだなぁ
私が鏡の前で体を動かしているときも
なんだなぁ
お茶を飲んでいても
なんだなぁ
稽古の進捗はどんなんだぁ
なんてことは聞かずとも想像がつきます。
ふりそそぐ「なんだなぁ」を耳にしながら気になることがでてきました。
美智子さんは田舎娘の役です。
「なんだなぁ」も訛らせています。
それがなんでか聞き覚えのあるイントネーションです。
それがなんだか。
…志村けん。
なんだなぁ
美智子さんの声が聞こえます。
なんだなぁ
と言ったあとに
だっふんだ
と言ってほしいという願いが心に芽生えましたが
そんなこと先輩にお願いできないと胸のうちにそっとしまいます。
そうしていまだにその「なんだなぁ」を聞き、
志村けんを思いだし、
その思いを抱えながら、
私の出番。
美智子さんが
なんだなぁ
と言ったらもうすぐ石原が舞台上に現れると
思っていただけたら幸いです。
ちなみにその日は時間切れで
私には浦さんとの稽古時間がまわってきませんでした。
なんだなぁ
石原石子