14/05/29
『言文一致』
樋口一葉の活躍した明治初期。
この時代、平安時代に確立し、それまでほとんど変わらず使われてきた文語(書き言葉)と1000年の間に大きく移り変わった口語(話し言葉)のギャップをうめて、文章を書き記すときにこれらを一致させて意思疎通にも学問習得にも便利なようにしようという動き、「言文一致運動」が行われた。
これには学者だけでなく二葉亭四迷を始めとする小説家の実作を伴う実験が大きく貢献したのだが、話し言葉をそのまま文書におこすと言葉のリズムが失われ、情緒が乏しくなり、田舎っぽいとけなされることもあった。
そのため言文一致はすぐには広まらず、それまでの文語体で作品を出し続ける者も少なくなかった。
ここで樋口一葉の作品に目を向けてみる。
会話文は現在の口語に近いものの、句点が少なく、鉤括弧もない。
現代文に慣れた私たちにはひどく読解しづらい。
しかし何度も読み進めてみるとこの独特のリズムの良さに引き込まれていく自分に気がつく。
小説なのにどこか詩的で流暢、さすがは歌塾でもその才能を認められていた一葉である。
演劇の舞台で表現したとき、この文体がどう生きてくるのかはまだわからない。
しかし“明治から現代まで変わらず存在し続けるだろう男女のすれ違いの機微” と“取っ付きにくくもどこか離れ難いこの不思議な魅力のある文体” が科学反応をおこし、現代人に突き刺さる。
そんな予感は生まれ始めている。
田中信介
※写真:樋口一葉のゆかりの地を巡るツアーより
菊坂近くの公園にて休憩中